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質の良いコーヒーを提供するというだけでは、差別化が難しいので、成し遂げられなかった可能性のある世界展開をシュルツは、コーヒーを楽しむ居心地の良い空間という付加価値をつけ、コーヒーを1つのブランドとして売りだすことで世界展開に成功します。

その結果、スターバックスは、今では世界最大のコーヒーチェーン店となり、世界62カ国、2万店舗以上(2013年3月現在)で、2012年度の売上は130億米ドルを超える規模にまで拡大します。

イタリアでエスプレッソを注文したその日から信じて疑わなかったシュルツ自身の信念を貫き通すことで、コーヒーチェーンの世界展開を成功させました。その秘密は、シュルツがイタリアで感じた心地よい場の提供を忘れず、それを実現させるための努力を決して怠らなかったことが成功の大きな要因の1つです。

シュルツのCEO退任から始まるスターバックスの業績低下

1992年から年平均成長率49%という驚異のスピードで成長を続けてきたスターバックスは、シュルツが、2000年、海外展開に更に力を入れるためにCEOを後任に託したことから業績の転落が始まります。

しばらくは、順調に店舗数を増やし成長を続けていたかのように見えましたが、米国内での無理な出店計画によって、人材の不足、クオリティの低下、飽和感の醸成、最寄りの店舗が50m先にあるという無茶な出店などが原因で、創業後、初めて客足が鈍ります。対策のために、企業ポリシーに沿わない商品開発まで行われましたが、失敗します。そして、スターバックスというブランドは崩れていき、2008年には赤字に転落します。

シュルツがCEO復帰し実行した再生プラン

最大の危機を乗り切るため、2008年にCEOに復帰したシュルツが真っ先に取り組んだのは、スターバックスブランドイメージの再構築です。

その対策は、中途半端なものではなく「米国内のスターバックス全7100店舗を一時的に閉鎖、バリスタの再教育」を何百万ドルという損失を出してまで実施し、スターバックスは立ち直るという強いメッセージをマーケットと顧客に訴えます。

そして同年、ハリケーン・カトリーナで大きな被害を受けたニューオーリンズでの、リーダー会議開催を決定しました。ハリケーンの襲来後3年たってもなかなか復興の進まなかった地域に巨額な予算を投じるだけではなく、シュルツ本人も含め累計5万時間にも及ぶ1万人規模のボランティア活動を行ったのです。その生産性は通常のボランティアの2倍に近いもので、共に働いたNGOを驚かせたといいます。

赤字の状況下でも、従業員を大事にするシュルツの強い思いに迷いはなく、ボランティア活動を期にシュルツの思いはスターバックス従業員とマーケットに強く伝わります。

その後も、コーヒーの良い匂いを妨げる商品は、売上を犠牲にしても廃止するなどのシュルツの改革は続きました。しかし、あらゆる手をつくしても、大幅下落した株価を元の水準まで上昇させるには至らず、やむなく最終手段であった赤字店舗の閉鎖に踏み切ります。その数、約600店。何よりも、ビジネスパートナーである従業員を大事にしてきたシュルツは、解雇せざるを得なかった仲間を思い、同じ過ちは二度と繰り返さないと誓います。

それからわずか2年後、シュルツの適切で大胆な改革によって客足は完全に戻り、翌年の2011年には過去最高利益を記録するまでになります。世界展開、そして赤字からの回復と難しい奇跡をシュルツは2度も成し遂げます。その年、シュルツはフォーチュン誌が選ぶ「Business of the year」に選出されました。

 

まとめ

スターバックスの実質的な創業者であるハワード・シュルツは、イタリアで、コーヒーをゆっくり楽しめる居心地の良い空間のカフェバールに、ここはコーヒーを飲んで、休むだけの場所ではない、居ること自体が素晴らしい体験になる「劇場」だと感激します。このコンセプトを経営理念にまで高め、それを実現するために経営理念が要請する行動規範を従業員に落とし込んでいます。その結果が、スターバックスの成長、世界進出の成功の大きな要因となっています。

参考:

「24時間仕事バカ!」の熱狂人生 スターバックスコーヒーカンパニーCEO ハワード・シュルツ
http://goethe.nikkei.co.jp/human/120628/index.html

カンブリア宮殿・・・スターバックス会長兼CEO ハワード シュルツさん
http://riverstar.cocolog-nifty.com/blog/2012/04/ceo-1471.html

Biography: Howard Schultz
http://www.myprimetime.com/work/ge/schultzbio/